パイロット留学は使えない？──そう言うならICAOを否定することになる

はじめに ― 否定から始まる文化

日本人特有の「少数派の否定的意見を世論の総意と取り違える大衆文化」は、これまで多くの業界の発展や法制度の改革を阻んできた。X（旧Twitter）に蔓延る「勝手にご意見番」たちがその象徴だろう。

私は仕事柄、世の中の検索キーワードを分析する機会が多い。驚くべきことに、「否定」から始まる検索が実に多いのだ。

「パイロット　就職できない」
「海外免許　使えない」
「パイロット　安く目指す」
「パイロット留学　就職できない」

——まだ訓練すら始めていない人間が、何を根拠に制度や職業の否定をしているのか。同じ日本人として、航空以前にリテラシーの低さを疑う。

否定から始める文化は、挑戦を奪う文化である。その空気の中で、「パイロット留学は使えない」と言い切る人々が増えた。だが、果たしてそれは事実なのか。

——いや、違う。使えないのは“制度”であって、“パイロット”ではない。

第1章：「使えない」という言葉の正体

「パイロット留学は使えない」と言う人々の多くは、自社養成組や航空大学校出身者、防衛・自衛隊出身者といった、制度側の恩恵を受けてきた層である。彼らは“枠の中にいれば守られる”構造で育ってきたため、枠の外から挑む人々を無意識に排除する傾向がある。

つまり、彼らの言う「使えない」は、能力や技量を指しているのではなく、「制度上の枠にない存在だから受け入れられない」という意味にすぎない。

使えないのではない。
使わせない構造になっているだけだ。

第2章：ICAOを否定するという愚

ICAO（国際民間航空機関）は、全世界の航空訓練と安全基準の母体である。カナダもアメリカもヨーロッパも、すべてICAO準拠のルールのもとで訓練を行っている。

したがって「海外ライセンスは使えない」と言い切ることは、裏を返せば「国際民間航空機関の認証訓練そのものを否定する」ことになる。つまり、世界基準を無視し、自国の独自ルールを上位に置く発想──“航空鎖国”である。

日本の航空制度は、ICAO加盟国でありながら、運用面では閉鎖的な独自路線を貫いてきた。その結果、「使えない」と言われるのは海外ではなく、むしろ日本側の制度そのものになっている。

第3章：では、問いたい。

否定する人に聞きたい。アメリカのフライトスクールで訓練し、アメリカの航空会社で飛んでいるパイロットは、技量が低いのか？
ではなぜアメリカの航空会社は、日本のフライトスクール卒業生を積極的にヘッドハンティングしないのか？

答えは明白だ。「海外だからダメ」なのではなく、日本が“閉じた制度”を守るために外を理解しようとしていないだけである。

この排他性こそが、若い世代の挑戦を阻み、業界の未来を細らせてきた最大の要因だ。

第4章：そんなにわが国の航空文化は進んでいるのか？

答えはNO. Definitely No.
法制度、文化、環境──どれをとっても、日本の航空界は「恐竜時代」だと諸外国から揶揄されている。

なぜ日本にパイロット留学が来ないのか？ なぜ海外の航空会社が日本に育成依頼をしないのか？

それは価格だけの問題ではない。文化的側面・制度的側面・そして航空リテラシーの低さが大きく関係している。

私は世界中のフライトスクールを回ってきた。訓練の現場を見て、教官と話し、訓練生たちの空気を感じた。その上で言える。
これは単なる主張ではなく、現場から見た事実だ。

第5章：結論 ― 使えないのは制度、飛べないのは国の意識

「パイロット留学は使えない」と言う前に、何が“使えない仕組み”を作っているのかを見よう。
航空という分野は、本来、国境も文化も超えるものだ。 しかし日本では、制度が空を閉じ、人々の想像力を縛っている。

使えないのは制度。飛べないのは意識。
空は、もっと開かれている。

最後に

一点だけ、誤解のないように明言しておきたい。
フィリピン免許だけは、申し訳ないが本当に使えない。
否定層がもしこの点について言及しているのなら、私もそこは激しく同意する。